プロジェクト研究
最高エネルギー宇宙線「最高エネルギー宇宙線で極高宇宙現象を探ってみよう」
Supervisor: 佐川宏行 TA: 池田大輔
10の20乗電子ボルトのエネルギーを持つ最高エネルギー宇宙線が宇宙からやってきている。人工加速器でこれまで人類が到達できたビームエネルギーよりも一千万倍以上も高い。このような膨大なエネルギーを持った粒子がどこで、どのように生まれ、どのように地球に飛来したのかについては未だ解明されていない。この謎に包まれた粒子の起源を探るために、米国ユタ州の砂漠地帯に地球大気をカロリメータとした巨大な宇宙線観測装置、テレスコープアレイ(TA)を建設した。日・米・韓・露・ベルギーの5ヶ国の研究者たちで構成されるチームが、 その謎に挑戦している。
これまでに超高エネルギー宇宙線のエネルギースペクトル(エネルギーの順に並べた頻度分布)、到来方向、粒子の種類に関して6年分の情報を得た。最高エネルギー宇宙線の到来方向の「ホットスポット」など、この謎に包まれた粒子の生成場所やどのように飛来してきたかを指し示すような面白い結果が出つつある。
プロジェクト研究では、研究の背景とこれら最先端の結果に触れた後、このTA 実験で実際に取得された最高エネルギー宇宙線のデータ解析を行なってもらう。 宇宙の極高エネルギー天体との関係を探り、宇宙に想いを巡らせよう。
ニュートリノ物理
Supervisor: 西村康宏 TA: Tsui Ka Ming、阿久津良介
ニュートリノは近年でもまだ全容が掴めない比較的新しい研究対象で、1998年にスーパーカミオカンデでニュートリノ振動と質量の存在がようやく明らかになりました。3種あるニュートリノの振動モード全てが明らかになったのは、2013年長基線ニュートリノ振動実験T2Kによる成果で、精密な測定をさらに続けています。数年先には、スーパーカミオカンデの純水中にガドリニウムを溶かし、反ニュートリノの特定が可能なSK-Gd、さらに近い将来レプトンCPや陽子崩壊などを解き明かすため20倍の体積を持つハイパーカミオカンデを計画しています。ニュートリノ研究分野はますます研究や競争が加速しており、宇宙創世の謎に迫っていくことが期待されます。
実習ではまず初歩から応用まで誰にでも分かるよう学習を進め、最前線の研究や実験の詳細まで細かく分かるように紹介していきます。理論や原理を理解したところで、スーパーカミオカンデのニュートリノ観測データを用いて物理解析に挑戦し、本当にニュートリノ振動が起こっていたか検証してみます。また、将来のハイパーカミオカンデに向けて開発が進んでいる最新の高性能光検出器の試験や、水チェレンコフ光を実際に観測してみて、どのように元の情報を再構築していくか、検出器開発とデータ解析についても実習を行います。研究に必要な理論・検出器・解析の全過程を、自主的に通して学べる貴重な機会となるでしょう。皆さんの興味を元に最初はレベルを合わせて、院生が懇切に初歩から細かい議論までなんでもサポートしますので、協力して進めていきましょう。
高エネルギーガンマ線天文学 チームA「高エネルギーガンマ線で暗黒物質を探索しよう」
Supervisor: 手嶋政廣、TA: 林田将明、高橋光成
高エネルギーガンマ線による宇宙の研究は、フェルミガンマ線衛星、 HESS, MAGIC, VERITAS などの地上チェレンコフ望遠鏡により、過去10年の間に大きく発展してきました。多数の高エネルギー天体からGeV・TeVガンマ線が発見され、宇宙で起こる様々な高エネルギー現象が明らかになってきました。超巨大ブラックホール、超新星残骸、高エネルギー宇宙線加速、コスモロジー、暗黒物質探索において重要な成果をもたらし、今や、高エネルギーガンマ線天文学は、宇宙物理学における極めて重要な分野を形成しています。本プロジェクト研究では、フェルミガンマ線衛星、MAGICチェレンコフガンマ線望遠鏡を使い、我々の天の川銀河の中心領域を100MeVから10TeVのエネルギー領域で観測してみます。銀河中心には太陽質量の大質量の数百万倍の質量を持つ巨大ブラックホールが存在し、多様な高エネルギー現象が起こっています。
1) ブラックホール周辺で加速された粒子は、周囲の輻射場、ガスと衝突しガンマ線を放出します。
2) 銀河中心領域に高密度に集中する暗黒物質は対消滅を起こしガンマ線を放出します。
銀河中心領域からのガンマ線のエネルギー分布、空間分布、時間分布を調べ、1), 2) の成分の分離を試み、暗黒物質を探索します。
高エネルギーガンマ線天文学 チームB「チェレンコフガンマ線望遠鏡を製作しカニ星雲の観測しよう」
Supervisor:手嶋政廣、TA: 中嶋大輔、永吉勤
地上チェレンコフガンマ線望遠鏡による宇宙の研究は、近年に至り大きく進展した新しい天文学の一分野です。現在およそ 200 の高エネルギー天体(超巨大ブラックホール、超新星残骸、パルサー星雲等)からの TeV ガンマ線放射が発見されており、続々と新たな天体、予期を超える天体現象が観測されています。さらにこの分野の研究を飛躍的に推し進めるために、国際共同研究で全天宇宙ガンマ線天文台 CTAO (Cherenkov Telescope Array Observatory) をスペイン・ラパルマ、チリ・パラナルの南北2カ所に建設を進めています。チェレンコフ望遠鏡は、大気中に入射したTeVガンマ線がつくる電磁シャワーからのチェレンコフ光を地上に設置した反射望遠鏡により、そのチェレンコフ光のイメージと光量を測定することにより、ガンマ線の到来方向とエネルギーを測定します。本プロジェクト研究では、ミニ・チェレンコフ望遠鏡を製作・較正し、宇宙線研究所屋上テラスにて宇宙線からのチェレンコフ光の観測を行い、その観測原理、チェレンコフ光の特徴を理解します。さらに時間があれば、銀河内で最も明るいガンマ線源であるかに星雲の観測を行います。
観測的宇宙論
Supervisor: 大内正己、TA: 藤本征史、菅原悠馬
ハッブル宇宙望遠鏡による深宇宙探査プロジェクトHubble Frontier Fields (HFF)が行われている。HFFは30等級近い高感度の可視光・近赤外線撮像を 近傍銀河団領域に対して行うものである。研究対象は銀河団背景にある超遠方の宇宙である。ハッブル宇宙望遠鏡による達成可能な極めて高い感度に加えて、銀河団の重力レンズ効果による増光(重力レンズ望遠鏡)を用いることにより、これまで不可能だった赤方偏移10程度の暗い遠方銀河の検出が行える。このような暗い遠方銀河は、138億年の宇宙史のうち最初の僅か数%の時代に起こった宇宙再電離を引き起こしたソースだと想像されているのだがその真偽は定かでは ない。本プロジェクト研究では、HFFデータを解析し、暗い遠方銀河が宇宙再電離に必要な電離光子数密度をもたらすかという問題に取り組む。詳細について は参加者の希望を聞きながら決めたい。HFFデータを用いた研究は世界中で精力的に進められているが、今なお新しいデータがとられ続けられていることもあり、今後も多くの発見が期待されている。特に、HFFデータは従来調べられていない新たな物理パラメター空間をカバーしているため、本プロジェクト研究を 通じて参加者自ら予期せぬ発見(serendipitous discovery)をする可能性もある。たった1週間でデータ解析の初歩から最先端の研究までを経験するため相応の困難が伴うが、高い意識をもつ学生な らばこれを乗り越えられると期待している。(なお、観測の進行状況によっては、すばる望遠鏡のデータなどを使ったプロジェクトに変更する可能性もある。)
重力波天文学「重力波検出器をつくり重力波をみつけよう!!」
Supervisor: 川村静児、TA: 伊藤洋介、榎本雄太郎
ついに重力波が検出された!アインシュタインの一般相対性理論によりその存在が予言されてからちょうど100年、ついに人類は宇宙の新しい窓を開け、重力波天文学を創成したのである。今回検出された重力波は太陽質量の30倍程度のブラックホール連星の合体からやってきたものであったが、今後は、中性子星連星の合体、パルサー、超新星爆発などから発生する重力波の検出も期待でき、さらに将来は、宇宙誕生の瞬間の観測、ダークエネルギーの探査、余剰次元の存在の確認などわくわくするようなサイエンスへとつながっていく。
本プロジェクト研究においては、メンバーひとりひとりが小型のレーザー干渉計型重力波検出器を製作し、その動作の仕組みを理解し、KAGRAなどの建設に必要な技術である、光学や制御技術を習得する。後半はその装置を用いて重力波の観測を行い、中性子星連星の合体から放射される重力波の予想波形やマッチドフィルターというデータ解析の手法を学んだ後、今回得られたデータを実際に解析し、重力波信号を探す。